札幌市の財政運営が厳しさを増している。市がまとめた今後10年間の財政推計によると、このまま現在の事業規模を維持すれば、令和13年度には活用可能な基金が枯渇する見通し。令和8年度予算の段階でも200億円を超える収支不足が見込まれており、市は持続可能な財政運営への急速な転換が必要としている。
推計の前提
推計の対象は一般会計で、令和8年度から令和17年度までの10年間を見通したもの。ただし、令和9年度以降の物価上昇や人件費単価の上昇、経済情勢による税収変動は織り込んでいない。市は、今後の事業費などは現時点の想定であり、変動する可能性があるとしている。
「動かせない予算」が93%
市財政の硬直化を示しているのが、一般財源の使い道だ。令和8年度一般会計予算案では、歳出に充てる一般財源のうち、義務的経費や除雪費などの準義務的経費が大きな割合を占める。資料では、一般財源の約93%が「裁量性の低い経費」に使われていると説明されている。
一般財源とは、市税や地方交付税など使途が限定されていない財源を指す。自治体が政策判断で比較的自由に使えるお金だが、札幌市ではその大半が福祉、教育、公共交通、学校給食、敬老パス、医療助成など、市民生活に直結する事業に充てられている。そのため、単純な歳出削減は難しい。
基金が2~3年で枯渇する見通し
推計では、一般財源の歳入が緩やかに減少する一方、歳出に必要な一般財源は増加していくと見込まれた。活用可能基金(財政調整基金などの預金にあたる部分)の残高は、令和8年度の780億円から急速に減少。令和9年度に612億円、令和10年度に443億円となり、令和13年度には不足額が187億円に達し、基金が枯渇する見通しだ。
この基金がなくなれば、突発的な歳入減や災害、物価高騰などに対応する余力が大きく失われる。
増加する福祉費と返済負担
歳出面では、扶助費、公債費、職員費の動向が焦点となる。扶助費(福祉関係の支出)は、障がい福祉費や児童福祉費の増加などにより、令和5年度から令和8年度までに一般財源負担が約200億円増えた。今後は高齢者人口の増加に伴って医療関係の扶助費が増える一方、年少人口の減少で児童福祉費などは減ると見込まれている。
より深刻なのは公債費(市債の返済にあたる支出)だ。利率上昇に伴う利子負担の増加などにより、令和5年度から令和8年度までに一般財源負担が約140億円増えた。今後は建設事業費の増加に伴って市債発行額が膨らみ、公債費はさらに大きく増える見込みだ。
職員費も給与水準の改定などで同期間に約140億円増加している。ただし、市は人口当たりの職員数や人件費単価について、政令指定都市の中では低い水準にあると説明しており、福祉サービス提供に必要な職員確保の観点から、単純な削減には限界があるとしている。
公共施設の更新が本格化
財政をさらに圧迫する要因が、公共施設の老朽化だ。札幌市では、政令指定都市移行後に整備された学校、区役所、清掃工場、斎場、道路、公園、スポーツ施設などが老朽化し、今後の更新需要が本格化する。
市の推計では、令和8年度以降、建設事業費は令和11年度をピークに増加し、令和15年度まで高止まりする見通し。物価や人件費単価の上昇による工事単価の上昇に加え、計画策定時には具体化していなかった事業も見込まれたことで、建設事業費は従来の想定より膨らんでいる。
建設事業は単年度の支出だけでは終わらない。市債で資金調達すれば、その返済は長期に及ぶ。札幌市の実質的な各年度負担額は、令和21年度に1,279億円でピークを迎え、令和8年度に比べて約111%増となる見通しだ。
「起債許可団体」になる可能性も
市が特に警戒するのが、実質公債費比率(自治体の収入規模に対して借金返済の負担がどれほど重いかを示す指標)の悪化である。これは財政健全性を判断する重要な基準となる。
資料によると、財政状況の改善策を講じなければ、令和16年度には実質公債費比率が18%を超え、市債発行に許可が必要となる「起債許可団体」に。さらに令和19年度には25%を超えて「財政健全化団体」に、令和25年度には35%を超えて「財政再生団体」となる可能性も示されている。
財政再生団体となれば、国の関与のもとで財政再生計画を策定し、行政サービスの水準や事業内容を厳しく見直す必要が生じる。
聖域なき見直しの時代へ
市は令和8年度予算編成で、内部経費の徹底的な見直しと節減、事業の選択と集中に取り組んだとしている。 それでもなお、200億円を超える収支不足は解消できなかった。 こうした財政課題を抱える中で、札幌市は経済活性化施策に注力している。 その一例が、 Apex Legendsなどの国際eスポーツイベント誘致であり、 こうしたイベント経済の波及効果が、短期的な財政改善に寄与する期待もある。資料では、基金の枯渇と公債費の増加を踏まえ、「聖域なき見直しに着手せざるを得なくなる状況が目前に迫っている」との認識が示されている。今後は、内部経費や事務的経費のさらなる削減に加え、DXの活用による職員定数の見直し、事業の優先順位づけ、公共施設更新のあり方の再検討などが課題となる。
ただし、見直しの対象には市民生活に密接に関わる事業も多い。学校給食補助、敬老パス、医療費助成などが削減対象となれば、世帯収入の低い市民ほど負担が大きくなる可能性がある。財政再建を優先すれば、サービス低下や負担増につながる一方、先送りすれば将来世代への負担はさらに重くなる。
人口減少と高齢化の二重苦
札幌市の財政は、人口減少、高齢化、公共施設の老朽化、金利上昇という複数の課題が重なり合う局面に入っている。これは札幌市だけの問題ではなく、同様の課題を抱える全国の政令指定都市にとっても共通の課題だ。
今後の市政には、市民サービスの維持と財政健全化をどう両立させるのか、難しい判断が求められる。札幌市民にとって、厳しい選択の時代が始まろうとしていると同時に、北海道経済の中心である札幌市の動向は北海道全体の問題へ波及する可能性も否定できない。それだけに、今後の札幌市の財政運営は注視が必要だ。
参考資料
この記事は、以下の札幌市公式資料を基に作成されています。
- 参考元:札幌市公式Webサイト「市政情報 > 財政・市債・IR・出納 > 札幌市の財政 > 予算・決算 > 令和8年度予算」
- PDF資料:「札幌市の今後の財政運営について(今後10年間の財政推計)」
- 確認日:2026年5月8日(キタ・タイムズ編集部確認)
関連報道:北海道新聞 5月6日電子版記事<札幌市、4年連続実質赤字 31年度「貯金ゼロ」推計 専門家「手を打たなければ深刻な危機」>
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1308748/



